宅録に最適な5インチモデルを中心にセレクト
人気のモニタースピーカーをエンジニアとギタリストが
それぞれの視点でレビュー
人気のモニタースピーカーをエンジニアとギタリストが それぞれの視点でレビュー
2019/07/16
田子 剛(ギタリスト/左)、近藤圭司 (エンジニア/右)
モニタースピーカーの試聴レビューをお届けします。今回は宅録に最適な5インチモデルを中心に、人気の6機種をセレクト。音楽制作集団「サインサウンド」のエンジニアである近藤圭司氏と、ギタリストの田子 剛氏に、それぞれの立場で各モデルのサウンドをチェックしてもらいました。
取材協力:SIGN SOUND LLC(http://signsound.net/)
取材:平沢栄司 写真:小貝和夫
※本コンテンツは音楽雑誌「サウンド・デザイナー」(2019年7月号)より抜粋したものです。
詳しくは、サウンド・デザイナー公式サイトをご覧ください。
宅録でミックスをするのに向いている初心者の初めの1台に最適なモデル
ヤマハ
HS5
オープンプライス(¥15,000前後/1本)
問:㈱ヤマハミュージックジャパンプロオーディオ・インフォメーションセンター
TEL:0570-050-808
ttps://jp.yamaha.com/products/proaudio/
近藤:これはパンチがあって、明るく元気な音ですね。パワー感があるというか音圧を感じるので、音量が上げられない宅録環境にはピッタリだと思います。華やかな中高域に対して、低域はフロントにバスレフポートがあるのに、無理に誇張していない自然な響きをしています。試しにスタンドから降ろしてインシュレーターで角度を付けてデスクトップに置いてみたら、低域がもっと出るようになったんですよ。だから、机に置いて使うのも想定して作られているのかもしれないですね。
田子:僕も近藤さんと同じく、音が明るいという印象で、スピード感を すごく感じました。低域の広がりはそれほどではないんですけど、逆にタイトな分だけ歪ませたギターも聴きやすいし、弾いていると気分が盛り上がります。それと、ギターだけでなくて、曲全体のアウトラインも見やすいですね。自分もDTMをやるんですけど、そういった用途にすごく合っていると思いました。
近藤:確かに音がハッキリしているので、各パートの定位がよく見えますし、かと言って広がりがないわけでもなくて、コスパが非常に高いですね。ギターのアタック感だとか、シンバルの鳴りが気持ちいいので、ロックバンド系みたいな騒がしいオケの中で歌を聴かせたいジャンルの制作にも向いていると思います。
スペック
●ウーファー:5インチ
●ツイーター:1インチ
●出力:70W(LF:40W/HF:30W)
●周波数特性:49Hz〜22kHz(±3dB)
●クロスオーバー周波数:2.5kHz
●外形寸法:176(W)×260(H)×195(D)mm
●重量:5.0kg
近藤:これはスッキリした爽やかなサウンドで、かつてのNS-10Mのような、ヤマハらしい中高域のニュアンスを踏襲している印象を受けました。その中高域も、強く主張するのではなくて素直なので、どんなジャンルの音楽制作にも使えると思います。さすがにヒップホップとか低音が欲しいジャンルzでは物足りないでしょうけど、HSシリーズにはサブウーファーのHS8Sもありますから、併用すればいいと思います。それと、リアにEQやローカットのスイッチがあるんですけど、もともと音がスッキリしているので、フラットなままでも問題はなかったです。ただ、バスレフポートがリアに付いているので、設置する時には壁との距離をある程度離した方がいいと思います。
田子:僕はギターを弾いていて、中域に特徴を感じました。ギターアンプで言うとマーシャルみたいな、ミッドとその少し上の帯域が出ているような印象です。音が明るくて弾きやすかったですし、ギタープロセッサーで使う場合、どんなサウンドでも対応できると思いますね。
近藤:低価格ながらもクオリティが高いので、宅録でミックスバランスを細かく調整するような使い方に向いていると思います。オールマイティというか扱いやすいので、初心者の方が最初に買うスピーカーとしてもいいのではないでしょうか。
スペック
●ウーファー:5インチ
●ツイーター:1インチ
●出力:25W(HF)+45W(LF)
●周波数特性:54Hz〜30kHz
●クロスオーバー周波数:2kHz
●最大音圧レベル:101dB SPL
●外形寸法:170(W)×285(H)×222(D)mm
●重量:5.3kg
ミキシングをするうえで必要な情報がすべて得られる驚異の小型スピーカー
IKマルチメディア
iLoud Micro Monitor
オープンプライス(¥37,000前後/ペア)
問:IKマルチメディア
https://www.ikmultimedia.com
近藤:これは私の周りでも評判が良くて、サブモニターとして使っているエンジニアも多いんですよ。こんなに小さいのにスタジオモニターの音がするんです。定位が良くて音像が見やすいし、反応が速いからミキシングをするうえで必要な情報がすべて得られます。このサイズからは信じられないくらい低音が出るのにも驚きました。それもボワボワせずに、タイトにしっかり出てくれます。低音が充実していると、どんなジャンルの音楽でも安定して聴けますし、音像が小さくならないからダンスミュージックとかのローも十分に体感できると思います。そういう意味でもオールマイティに使えますね。
田子:いろんな楽器の音が聴きやすくて、スピーカーのサイズ以上の音圧が感じられるところがいいなって思いました。オケに合わせてギターを鳴らすと、低域がいい感じに出てくれて、上から下までレンジが広いので弾きやすかったですね。個人的には、歪み系よりもクリーンの方が合っている印象でした。
近藤:あと、本体に角度調整ができるスタンドが付いていて、デスクにも置いてみたんですけど、最初は少しサウンドがモヤッとしていたんですね。で、背面のスイッチを「Flat」から「Desk」にしてみたら、低域が変わるだけじゃなくて中高域も変化して、すごく聴きやすくなりました。
スペック
●ウーファー:3インチ
●ツイーター:3/4インチ
●出力:70W(PEAK)/50W(RMS)
●周波数特性:45Hz〜22kHz(−10dB)
●クロスオーバー周波数:3kHz
●最大音圧レベル:107dB(@50cm)
●外形寸法:90(W)×180(H)×135(D)mm
●重量:920g(左)/800g(右)
音の立ち上がりがすごく速くて、弱音から強音までをきちんと表現できる
イヴ・オーディオ
SC205
¥50,000(1本)
問:㈱メディア・インテグレーションMI事業部
TEL:03-3477-1493
https://www.minet.jp/
近藤:これは音の立ち上がりがすごく速くて力強いんですけど、クリアに聴こえますね。特にダイナミクス系のエフェクトの効果がわかりやすかったです。それに、弱音から強音まできちんと表現してくれるので、ボーカルのニュアンスや演奏の強弱とかも生々しく伝わってきます。低域から高域までバランス良く再生してくれますけど、中域に少しハデさがあって、気分が上がりました。リボンツイーター特有の、高域の柔らかい耳あたりも良かったです。あと、音質調整用のツマミがフロントにあるのがいいですね。座ったまま手を伸ばして操作できますし、様々なパラメーターを細かく調整できて、音の変化も自然だから、簡単に好みのサウンドに追い込めます。
田子:スピード感のあるハッキリした音で、特に低域がしっかりしています。ニュアンスがハッキリと聴こえるので、逆に演奏のミスが目立っちゃうかな(笑)。ギターはクリーンと歪み系のどちらでもオールマイティに使えると思いますけど、ロックバンド用のモニターというイメージで、大音量でへヴィなロックを弾いたら絶対に気持ちいいですよ!
近藤:とはいえ、アコギやピアノとボーカルみたいな、ニュアンス重視のアコースティックな曲もいい感じで再生できるんですよ。これは本当にいいスピーカーだと思いました。
スペック
●ウーファー:5インチ
●ツイーター:AMT RS1
●出力:100W
●周波数特性:53Hz〜21kHz
●クロスオーバー周波数:3kHz
●最大音圧レベル:101dB
●外形寸法:175(W)×275(H)×233(D)mm
●重量:5kg
素直な高域と誇張がない低域を持つ、どのジャンルも気持ち良く聴けるモデル
フォーカル・プロフェッショナル
SHAPE 50
¥55.370(1本)
問:㈱メディア・インテグレーションMI事業部
TEL:03-3477-1493
https://www.minet.jp/
近藤:とても上品なサウンドが鳴ってくれるスピーカーですね。個人的にはスタジオモニターとリスニングスピーカーの中間くらいの位置付けと言うか、モニター用としては少し柔らかめの印象で、長時間聴いていても疲れなかったです。高域も素直に出ていますし、両サイドのパッシブラジエーターのおかげで低域も誇張がなくてスムーズですね。ハデさはないですけど音が自然で、音量の大小に関係なくエフェクトのかかり具合とかが見やすかったです。デザインもスタジオモニターらしくなくてオシャレですし、木の質感は部屋に置いても馴染むでしょうから、宅録環境にも合いますね。
田子:低域が少なめに感じました。全体としては比較的スッキリめという印象で、歌がすごく聴きやすかったです。僕にとっては少しビンテージ風と言うか、それこそビートルズとか、そういう時代の音が似合うなって思いました。ギターでクリーンサウンドのカッティングをすると、音がキンキンしないで再生されるのが気持ち良かったです。
近藤:耳あたりがいいから、クラシックやジャズといったアコースティック系の音楽にもバッチリ合うと思います。だからと言ってロックやポップスに合わないっていう意味ではなくて、どのジャンルの音楽も気持ち良く聴けるスピーカーです。
スペック
●ウーファー:5インチ
●ツイーター:1インチ
●出力:60W+25W
●周波数特性:53Hz〜21kHz
●最大音圧レベル:106dB(ピーク@1m)
●外形寸法:191(W)×312(H)×242(D)mm
●重量:6.5kg
周波数レンジが広くて音像が立体的に見えるプロも納得の高解像度が売りのスピーカー
リプロデューサー・オーディオ
Epic 5
オープンプライス(¥150,000/ペア)
問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213
https://www.hookup.co.jp
近藤:これはすごくクオリティが高いスピーカーだと思います。周波数レンジが広いうえに全帯域のつながりが良くて、小さな音で鳴らしてもバランスがいいんですね。底面に付いているパッシブラジエーターのおかげか、低域もヘンな誇張がなくて自然に再生してくれました。デザインがユニークで、スパイクで角度が付いているので最初はデスクトップに置いて使うものだと思っていたんですよ。でも、調べてみると耳の高さに合わせるように置くのが正解で、フロント面の角度が周波数バランスの良さにひと役買っているようです。今回試聴した中では解像度が一番高くて、前後左右の広がりもいいから、音像が立体的に見えました。
田子:まず、価格を知らずに試聴したんですけど、パッと聴いただけで“高そうな音してるな”って思いました(笑)。音がリッチというか、実際よりも距離を近く感じましたし、それでいて奥行きも感じられるというのが素晴らしいですね。キメが細かいんですけど音圧も感じる、いかにもギタリストが好きそうな音です。
近藤:それと、中域の密度が濃くて、情報量が多いなと感じました。中域が充実していると歌の存在だとか、それに対するギターや他の楽器の関係とか、音楽的なバランスが作りやすいんですよ。このスピーカーで仕上げれば、どんな環境でも問題なく聴けるミックスが作れます。
田子:ギターで言えばクリーン系に合っていますが、歪み系も良かったので、ギタープロセッサーで音を作り込むのにはいいと思いますね。いろんなタイプの曲を試聴してみましたけど、アコースティック系からへヴィロック系まで、何を聴いても気分が上がるという印象でした。
近藤:歌とかが生々しく聴こえるんですけど、それでいて音が上品だから、ストリングスやピアノといった生楽器も本当にキレイに聴こえるんです。あと、濃密な中域がギターのおいしい部分を再生してくれるので、ロックを聴いても気持ち良かったですね。
本体の底面にパッシブラジエーターが装備されており、これによりナチュラルな低域を再生することができる
本体の底面に取り付けるスパイクと、スパイクの受け皿となるシリコンパッドが付属しており、これによってスピーカーの振動がスピーカースタンドなどに伝わるのを防ぐことができる
リアには±5dBの範囲内で調整できる、ハイとローのトリムツマミが付いている
スペック
●ウーファー:5.25インチ
●ツイーター:1インチ
●パッシブラジエーター:6.25インチ
●出力:75W(RMS)/150W(PEAK)
●周波数特性:56Hz〜40kHz(±3dB)、45Hz〜46kHz(±10dB)
●クロスオーバー周波数:2kHz(24dB/oct)
●最大音圧レベル:109dB @100Hz以上
●外形寸法:190(W)×310(H/スパイク装着時)×240(D)mm
●重量:5.2kg
試奏者プロフィール
近藤圭司 (コンドウ ケイジ/エンジニア)
音楽制作集団「SIGN SOUND LLC」所属のレコーディングエンジニア。これまでにコブクロ、銀杏BOYZ、西川貴教、宮野真守、JAM Project、Wake Up, Girls ! などの有名アーティストのレコーディングだけに留まらず、劇場アニメ「打ち上げ花火」、 ゲーム「NieR:Automata」、TVドラマ「ミラー・ツインズ」などの劇伴まで、幅広いフィールドの作品を手掛けている。
田子 剛(タゴ ツヨシ/ギタリスト)
音楽制作集団「SIGN SOUND LLC」所属のギタリスト/作・編曲家/プロデューサー。独創的かつ確かなテクニックに裏打ちされた存在感のあるギタープレイが強み。レコーディングからライブ、MV、テレビ出演まで幅広く活動をしている。また、ロックやポップスから劇伴まで、様々なスタイルを折衷した楽曲制作を行ない、そのクオリティの高い作風が高い評価を得ている。
今回の試聴方法
近藤氏はアビッドPro Tools(DAWソフト)を使い、自分がミックスした音源や、普段からリファレンスにしている様々なジャンルのCDを使って試聴を行なった。オーディオインターフェイスはアビッドHD I/O、モニターコントローラーはグレース・デザインのm905を使用した。一方の田子氏は、フェンダー・ストラトキャスターを①パルマーのPocket Amp(アンプシミュレーター)につなぎ、②ラジアルJ48(DI)を経由したサウンドと、Pocket Ampから下写真のニーヴ1073(マイクプリ)を通した両方のサウンドをPro Tools経由でスピーカーに送って鳴らした。
ニーヴ1073(マイクプリ)
パルマーのPocket Amp(アンプシミュレーター/右)、ラジアルJ48(DI/左)
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