エンジニア青野光政氏がサウンドチェック
UAD v9.9のエコールームとTUBE-TECHコンプを徹底レビュー
UAD v9.9のエコールームとTUBE-TECHコンプを徹底レビュー
2019/08/15
ユニバーサル・オーディオの人気DSPプラグイン、UAD-2の最新バージョン9.9が先頃発表され、新たに2つのプラグインが追加されました。実在するエコールームのリバーブを再現する「Capital Chambers」と、コンプの名機チューブテックCL 1Bを再現した「Tube-Tech CL 1B」のアップデート版です。その実力を、エンジニアの青野光政氏にチェックしてもらいました。
文:青野光政
Capitol Chambers $349.00(UAストア価格)
米国キャピトル・スタジオにあるエコールームをリアルに再現
ロサンゼルスのキャピトル・スタジオの地下にある、エコールーム(エコーチェンバー)を再現したプラグイン「Capitol Chambers」が発売されました。エコールームとは、エコーを作り出すための部屋のことです。キャピトル・スタジオのホームページで「ECHO CHAMBERS」という名称で紹介されています。ギターで有名なあのレス・ポール氏と、ユニバーサル・オーディオの創設者であるビル・パットナム氏が共同でデザインを手掛けたそうです。
1960年代〜70年代には、日本のレコーディングスタジオにもエコールームがありました。僕が知っているのは青山のビクタースタジオで、当時は5部屋くらいエコールームがあったと思いますが、正確な数は覚えていません。仕組みはこのCapitol Chambersと同じで、鉄筋コンクリートで作られた部屋にスピーカーを入れて、エコーをかけたい音源を鳴らし、中で反射したエコー成分をマイクで拾うというものです。簡単に言うと、皆さんが大きなビルのエントランスに入った時に感じるようなエコーが得られます。
このエコーのすごい点は、EMT 140などの機械的に作られたエコーと違い、音そのものがエコーになるので、とても自然です。また、プラグインのリバーブではエコーが見えにくくなる現象がよくありますが、Capitol Chambersのエコーはしっかりした存在感があります。
最初はブラスにかけてみました。ファクトリープリセットが数多く入っているので、それを試してみると、昔から欲しかったエコーの音がたくさん入っていました。マイクも4種類あり、色々なエコー音が試せます。実際、かけてみるとオケ中で埋もれていたブラス音の存在感が見事にあらわになっていきました。
次にドラムにかけてみます。昔、「アル・シュミット(※)が何でもかんでもエコーチェンバーに音を入れている」という話を聞いたことがあるので、内蔵されているアルによるプリセットを使ってみました。キックの音がボワンボワンになるかと思いきや、そのような現象は全然起きません。また、スネアにかけても、ちゃんとエコー感があります。プリディレイやディケイコントロール、80~750Hzの可変フィルター、EQが付いているのも便利で、すべてのジャンルに有効だと思います。欲しかったエコーが、やっとプラグインで手に入りました。
Tube-Tech CL 1B MkII $299.00(UAストア価格)
チューブテックの有名なオプトコンプをさらにリアルに再現
こちらは以前からUADプラグインにあった「Tube-Tech CL 1B」のアップデート版で、デンマーク製のオプティカルコンプの実機を再現したプラグインです。
僕はこのCL 1Bを歌に使うことはあまりないのですが、打楽器、特にクラシックのパーカッションによく使っていて、生楽器や打ち込みパートにも使用します。とてもナチュラルにかかる、すごく好きなコンプです。かなりハードコンプ(強めの設定)で使っていて、ドラムにもよくかけます。
今回のバージョンで何より気に入ったのが、しっかりとチューブ(真空管)の音になっている点です。「チューブの音がする」という触れ込みのプラグインは今までもありましたが、実際にそのような音がする製品はなかなかありませんでした。このTube-Tech CL 1B MkⅡは真空管のハードウェアと比べても、かなり近い音がします。これはすごいことです。
普段はCL 1Bをあまり使わないボーカルパートでも試してみました。アップデート前のCL 1Bに比べて、スピーカーに張り付く印象があります。前モデルはコンプレッションした時に音が少し後ろに行ってしまい、音量を上げても前に出てこない感じがありました。本機はそれがなく、驚くほどの進化を遂げています。
それと、画面が大きくなって操作性が良くなり、実機のかかり具合にかなり似ていると思いました。例えば、アタックとリリースの感覚です。「この位置にセットしたら、こんなニュアンスでかかる」というところまでも再現されています。
また、実機ではフォトカプラーの代わりに使われているチューブの品質によって、かかり方に個体差がありますが、プラグインではそれがありません。オススメの用途はドラム系、ベース、ボーカルで、意外にピアノなどでも良かったです。
実機にない新たな機能も追加されています。ひとつは「サイドチェーン・ローカット」。これはキックなどの低音パートにトリガーされてコンプが作動してしまうのを防ぐ機能です。これがあると、とても助かります。ローカットする帯域は80Hz以下と220Hz以下の2種類から選べます。
もうひとつ、DAWソフトではお馴染みの、dry /wetのミックス機能(コンプがかかった音と原音のミックス)も付きました。どんどんいいプラグインが出てきていて、これからも楽しみです。
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