ギタリストのjunchi.がサウンドチェック

宅録に便利なハイゲイン系小型アンプヘッド徹底レビュー

宅録に便利なハイゲイン系小型アンプヘッド徹底レビュー

2019/09/11


宅録に最適な小型のアンプヘッドが続々と登場しています。自宅だと大音量でアンプを鳴らすことは難しいですが、実はエミュレートアウトやロードボックスを利用することで、ライン録音でもかなりのクオリティで録ることが可能です。ハイゲイン系アンプを7台チョイスし、ギタリストのjunchi.氏に、ライン録音で個々の実力をチェックしてもらいました。

取材:本多理人(編集部) 写真:小貝和夫

junchi.

【junchi.(ジュンチ)】2008年「High Speed Boyz」に作曲者兼ギタリストとして参加(2011年脱退)。現在は自身のバンド「chasedown」で活動しながら、数多くのアーティスト(HYDE、hitomi、土屋アンナ、小野賢章、GARNiDELiAなど)のライブツアーやレコーディングに参加し、作・編曲家としても幅広く活躍している。

 

小型アンプを宅録で使うメリットと今回の試奏方法について

宅録で小型アンプヘッドを使うメリットは、当然ながら、一般的なヘッドよりも場所を取らないことです。それと、最近は「(スピーカー)エミュレートアウト」を搭載している製品が増えているので、ライン録音がダイレクトにできます。エミュレートアウトがない機種でも、「ロードボックス兼スピーカーシミュレーター」を導入すれば、リアルなアンプサウンドがラインで手に入ります。

ギタープロセッサーとの音の差を付けたい人にも小型アンプヘッドはオススメです。プロセッサーは様々なアンプをシミュレートしていますけど、そのメーカー特有のキャラが音に付いてしまって、本物のアンプとはまた違うんですよ。逆に言うと、その個性も込みでプロセッサーが好きな人は、プロセッサーでレコーディングしてもいいと思います。

ちなみに、僕のメインアンプはDivided by 13です。アイバニーズTube Screamerやブースターをかますと80年代の歪み感が得られます。より過激で現代的な歪みが欲しい時はフリードマンRUNT 20を使いますね。あと、EVH 5150はハイゲインアンプなので、そのままメタル系に使えます。

今回の試奏では、エミュレートアウトからライン録音する方法と、スピーカーアウトからロードボックス経由でライン録音する方法の、両方でチェックしました。前者の方が音の重心が下がる傾向があり、低音がふくよかになって、高音が少し落ち着きます。後者はグッと重心が上がって、抜け感が良くなりました。個人的には後者が好みで、より自然な感じがしましたね。

小型アンプの利点は、出力W数を目一杯鳴らしきれるところにあるので、試奏ではマスターボリュームをフルにしました。アンプに無理をさせているような、ヒリヒリしたスリリングなサウンドが、100Wのアンプよりも出しやすいんです。

注意点として、ロードボックスを使う場合は、先にロードボックスの電源を入れてから、アンプの電源を入れるようにしてください。スピーカーがつながっていない状態でアンプの電源を入れると壊れてしまいますよね。それと同じです。

あと、スピーカーアウトとロードボックスのΩ数を合わせないと、アンプに負荷がかかって壊れるので注意しましょう。

今回の試奏に使用したロードボックス「Two Notes Torpedo Captor」

torpedo captor

試奏に使用したロードボックスは、トゥーノーツの「Torpedo Captor」(オープンプライス/¥30,000前後)です。非常にポテンシャルが高くて、操作方法がシンプルなので、ギタリストに向いていると思います。アンプヘッドをつなぐだけで、すぐにいい音が出せました。特にメタル系の歪みサウンドと相性がいいんです。バイト感というか、「ギャンギャン」と嚙みつく感じがリアルで、弾いていて楽しいです。僕も1台欲しいですね。スピーカーシミュレーションのクオリティも高くて、実際にマイクを立てて録ったようなエアー感がきっちりあります。ソフト上で細かいエディットもできますけど、つないでボリュームを上げるだけで十分いい音になりますね。4Ω/8Ω/16Ωの3モデルがあるので、所有しているアンプのΩ数を確認してから購入するようにしてください。

Marshall DSL1H オープンプライス(¥33,000前後)

BPMの速いキレのあるザクザクしたメタルを演奏するのに最適

marshall dsl1h

SPEC ●チャンネル:2(クラシックゲイン/ウルトラゲイン)●出力:1W/0.1W ●入力端子:1/4"楽器、 3.5mm外部、リターン ●出力端子:3.5mm外部、1/4"スピーカー、センド   ●真空管:2×ECC83(プリ)、ECC82(パワー) ●外形寸法:360(W)×210(H)×215(D)mm ●重量:5.6kg

これにはビックリさせられました。いわゆるマーシャルのDSLサウンドが、わずか1Wで出せます。ローがふくよかでハイもすごく出ていて、JCM800やJCM900よりモダンで近代的な歪みが得られました。日本中のリハスタにある、ギタリストなら誰もが使ったことがあるであろう、あのDSLと同じ質感の音が1Wで出せるとは、さすがマーシャルの技術はすごいですね。それでいて重量が軽いから、持ち運びもラクです。

1Wなので、マスターボリュームを全開にして、チューブをフルに鳴らしきれます。実際、すごくパワー感のある音が出せました。ゲインもトーンもほぼフルテンにして、ブーミーになる手前のギリギリまで上げると、太くてガッツのある音が出ます。

DSL1Hのような、出力W数が低くて小ぶりなアンプは、トーンをイジる時にスイートスポットが何箇所かあるんですよ。そこを見つける感じで操作するのがコツです。マーシャルの場合、フルテンから始めて、減らす方向でスイートスポットを探すと音作りがしやすいですよ。

ハイゲインアンプとしても十分で、メタルで使えるアンプだと思います。BPMの速い、キレのあるザクザクしたメタルをやるのにもいいですね。バッキングからソロまで使えるし、リバーブも優秀です。クランチやクリーンにかけると、ずっと弾いていられます。

Marshall SC20H ¥140,000

ミッドがふくよかで、おいしいところが出せるフルテンサウンド

marshall sc20h

SPEC ●チャンネル:2(クラシックゲイン/ウルトラゲイン)●出力:1W/0.1W ●入力端子:1/4"楽器、 3.5mm外部、リターン ●出力端子:3.5mm外部、1/4"スピーカー、センド   ●真空管:2×ECC83(プリ)、ECC82(パワー) ●外形寸法:360(W)×210(H)×215(D)mm ●重量:5.6kg

僕はもともとマーシャルのJCM800が大好きで、長いことJCM800 2203を所有していたんですよ。で、今回2203を元に開発されたSC20Hを見たら懐かしくて、どんな音がするのかと思ったら、まさしくJCM800の音が出てきました。わりとよく歪むタイプのJCM800ですね。2203よりも少しゲインが高いかも。

これもフルテンから音作りをしてみましたけど、EQの効きがいいですね。昔のJCM800はEQの幅がそんなに広くなかったですけど、SC20Hは最近のモデルだけあって広くなっている気がします。ゲインの幅も少し広がっているかな。

DSL1Hと同様、小型でもマーシャルサウンドをきっちり再現しています。ハイゲインで使う場合は、ブースターを組み合わせた方がいいですね。ブースターをかますと、ザック・ワイルド的なメタリックでサスティンが伸びる音になります。ソロで使いたいサウンドですね。ちなみに、今回僕が作った試聴音源は、ブースターを使わずに、アンプのゲインをフルにした音です。ミッドがふくよかで、ギターのおいしいところが出せました。

あとは、クランチでカッティングをするのにもSC20Hはいいと思います。1chのアンプって、余計な回路を通っていないピュアなサウンドが出せるんですよ。イメージした音に早く辿り着けるので、1chアンプは大好きですね。

MESA/BOOGIE MARK FIVE 25 オープンプライス(¥250,000前後)

硬くて直線的なサウンドで、スラッシュメタルからへヴィロックまで万能に対応

mesa boogie mark five 25

SPEC ●チャンネル:2 ●出力:10W/25W ●入力端子:インプット、フットスイッチ、リターン ●出力端子:CAB CLONEキャビネットシミュレーター、センド、ヘッドホン、スピーカー(4/4/8Ω)  ●真空管:6×12AX7(プリ)、2×EL-84(パワー) ●外形寸法:355.6(W)×203.2(H)× 222.3(D)mm ●重量:7.49kg

同じMARK FIVEの100Wを弾いたことがありますけど、このMARK FIVE 25は、音はそのままに筐体だけが小さくなったような印象です。わずか25Wで、メサ・ブギー特有のサウンドを実現したのはすごいと思います。ローはふくよかなのにタイトで、押し出しが強いですね。

非常に万能で、色々な音が作り出せました。トーンで音を決めてから、グライコでもう少し突いたり引いたりと、細かい調整も可能です。あるいはトーンをフラットにして、グライコで音作りをしてから、足りないところをトーンで補うという使い方もありですね。今回はミッドを少し削ってみました。

グライコは同社が推奨する「V」の形がデフォルトで、この状態が一番いい音がします。ドンシャリの設定ですけど、ミッドもちゃんとあるメタリックな音です。テンポの速いスラッシュメタルからヘヴィロックまで対応できますし、ローチューニングの曲にも対応できます。音が少し硬くて直線的なので、そういうキャラクターが好きなギタリストにオススメです。かなり今っぽい音ですね。

ライン録音用の「CAB CLONEキャビネットシミュレーター・アウト」の音がすごくいいです。少し重心が上がるような印象があって、より直線的な音になります。しかも、オープンバックとクローズドバックを選択できるのがマニアック。音作りを追求したい人にオススメです。

問:㈱キョーリツコーポレーション
support@kyoritsu-group.co.jp

VOX MV50 High Gain ¥25,000

メタリックなサウンドをすぐに出せるように作られた超々小型アンプヘッド

vox mv50 high gain

SPEC ●チャンネル:1 ●出力:最大50W RMS(4Ω)、25W RMS(8Ω)、12.5W RMS(16Ω) ●入力端子:インプット ●出力端子:ライン/ヘッドホン、スピーカー  ●真空管:Nutube 6P1 ●外形寸法:135(W)×100(H)×75(D)mm ●重量:540g

今回一番驚いたのがこのMV50 High Gainでした。まずサイズが、「これアンプなの?」っていうくらい小さくて、なのに出力が50Wもあるというのが、もはや異次元です。「ハイゲインって書いてあるけど、いやまさか……」と思ったのですが、今回一番メタルな音がしましたね。メタリックなサウンドをすぐに出せるところに、ポイントを絞って作られた感じです。「メタルやるならこれで!」って。それと、Nutubeという経年劣化しない真空管を採用しているのも特徴です。

今回はボリュームを全開にして、16Ωで使ったので、12.5Wを鳴らしきるイメージでした。歪み感はメタリックで、ゲインをゼロにしてもクリーンにならず、クランチになります。

ラインアウトから録音してみると、少しゲインが下がると共に、高域が削られて低域がふくよかになりました。

もしメタルバンドをやっている人がメタル系ミニアンプを買いたいと思っているなら、本機をオススメします。リハーサルでも使えますし、50Wあるからライブもこれで行けますし、プリアンプや歪みエフェクターとしても使えます。

トーンツマミは1個しかないですけど、スイートスポットが見つけやすい。実際、ハイ/ミッド/ローのそれぞれの帯域でスイートスポットを見つけられました。

あと、EQのモードが「ディープ」と「フラット」から選べます。ディープにすれば、より低音が強調されたメタルサウンドが出せます。

問:㈱コルグお客様相談窓口
TEL:0570-666-569

Egnater Rebel-30 Mark II オープンプライス(¥130,000前後)

2種類の真空管をミックスして音作りができる

egnater Rebel-30 Mark II

SPEC ●チャンネル:2 ●出力:1〜30W ●入力端子:インプット、フットスイッチ、リターン ●出力端子:スピーカー(4/8/16Ω)、レコーディング、センド  ●真空管:6V6、EL84 ●外形寸法:431.8(W)×215.9(H)×279.4(D)mm ●重量:10.4kg

これは中域に特徴があるアンプで、ミッドを削っても、ほとんど減らないんですよ。いい意味で抜け感がずっとあって、スカスカにならず、ミッド感が残ったままドンシャリっぽくなる。ハードロックとかのソロにピッタリでしょうね。

真空管はEL84と6V6が入っていて、ツマミでクリーン(6V6)と歪み(EL84)をブレンドできます。片方に振り切っても全然いいんですけど、クリーンにしたいなら8割くらい6V6側、歪みにしたいならその逆とか、方向性を決めて混ぜるといいですね。あと、1Wから30Wまで出力をボリューム感覚で操作できるのも独特です。

個人的にはクランチで使いたいです。サウンドはフェンダーに似ているんですけど、もっとモダンですね。クリーンでも若干歪みが乗るのが独特で、テレキャスターをつないでアルペジオを弾くとカッコいい。非常にポテンシャルが高いアンプです。

FRIEDMAN RUNT 20 HEAD オープンプライス(¥200,000前後)

ゲインの幅が広くて色々な音が作り出せる

friedman RUNT 20 HEAD

SPEC ●チャンネル:2 ●出力:20W ●入力端子:インプット、フットスイッチ、リターン ●出力端子:スピーカー(8/16Ω)、センド、バランス ●真空管:3×12AX7(プリ)、2×EL-84(パワー) ●外形寸法:457(W)×210(H)×222(D)mm ●重量:10.0kg

これは僕が普段からよく使っているアンプです。音はモダンで、すごく優等生という感じ。ゲインの幅が広くて、色々な音が出せます。クランチ、クリーン、ハイゲインまで、どれもハイクオリティなサウンドで鳴らせますし、特にハードロックやヘヴィロックにいいですね。

EQをドンシャリにしてブースターをかませば、スラッシーなザクザクした感じも作れます。モダンなラウドロックやポストハードコア、今のオルタナティブ系みたいなのも行けますね。ブーストスイッチをオンにすると、さらに歪みます。

トーンのスイートスポットもたくさんあります。メタルを録る時はわりとミッドを削り気味にして、ドンシャリ気味で使っています。それと、このアンプに関しては、プレゼンスを上げた方がオケの中で存在感が出ます。僕は3時くらいまで上げました。バランスアウトからのライン録音もしてみましたが、これもよく出来ていると思います。

ORANGE OR-15H ¥70,000

ミッドが張り出した太いサウンドが特徴

orange or-15hSPEC ●チャンネル:1 ●出力:7W/15W ●入力端子:インプット、リターン ●出力端子:スピーカー(8/8/16Ω)、センド ●真空管:3×ECC83/12AX7(プリ)、2×EL84(パワー)、1×ECC81/12AT7(FXループ) ●外形寸法:400(W)×210(H)×180(D)mm ●重量:8.06kg

これはオレンジならではの、ドンシャリではなく、ミッドが張り出す感じが、このサイズでも再現されています。チャンネル数が少ない分、余計な回路を通っていないので、音が太いんだと思います。

どちらかというとクランチ向きで、激しく歪ませない方がいいと思いました。ハイゲインで使うなら、少しゲインが足りないので、ブースターを足したらいいと思います。80年代のハードロック的なアプローチを、レギュラーチューニング、もしくはドロップDチューニングで弾くと相性がいいです。

ミッドがよく出るので、録音の際、他のアンプと差別化できるのがいいんですよ。バッキングにハイゲインアンプ、オブリやソロなどにOR-15Hを使うことで、1曲の中でサウンドの棲み分けができます。あと、15Wと7Wの切り替えができるので、クリーンにしたければ7Wにします。なお、今回試した中で本機だけエミュレートアウトが付いていません。

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