話題のアンプ、マイク、コンプ etc...を試奏
【プロがレビュー】真空管内蔵モデルの音質徹底チェック
【プロがレビュー】真空管内蔵モデルの音質徹底チェック
2017/07/06
ギターアンプやエフェクターの中には、内部に真空管が組み込まれているモデルがあり、トランジスタでは出せないウォームなサウンドが得られることで多くのギタリストを虜にしています。同じくレコーディング系の機材にも真空管を使ったものがあり、こちらも多くのエンジニアが使っています。この特集では、その「真空管」を内蔵したモデルにスポットライトを当てて、プロにサウンドをチェックしてもらいました。
取材:井桁 学、目黒真二 写真:小貝一夫
協力:石原愼一郎(アースシェイカー)、飛澤正人
※本コンテンツは音楽雑誌「サウンド・デザイナー」(2017年7月号)より抜粋したものです。
詳しくは、http://www.sounddesigner.jp/をご覧ください。
ギタリストがぞっこんの真空管サウンドの正体
プラグインやモデリング系のハードでは決して再現できない質感が魅力
「真空管(チューブ)」とは、その名の通り真空状態のガラスや金属の管の中に電極を取り付けたもので、簡単に言うと「小さい電気信号を大きく増幅する」ためのものです。100年以上も前から使われているパーツですが、トランジスタが開発されて以降も、楽器やオーディオ製品など、多くの機器で使われています。
ご存じの通り、ギターアンプの代表格としておなじみのマーシャルJCMシリーズやフェンダーTwin Reverb、VOX AC30などにも真空管は搭載されていて、パワフルなサウンドを出すことができる点で、今もなお世界中のギタリストの間で高い人気を誇っています。
真空管を使っている機材はギター関連以外にも多数あって、マイク、マイクプリ、コンプ、チャンネルストリップなどで真空管が使われているモデルが発売されています。そのサウンドは太く艶やかで、特有のテイストを得ることができるため、多くのミュージシャンやエンジニアが愛用しています。
読者の中には真空管タイプではないコンデンサーマイクやマイクプリを使ってレコーディングをしている方も多いと思います。そのような機材環境で、もし「マイクで録ったパートの高音がシャリシャリして低音が薄いうえに、ボーカルとバックトラックが混ざりにくい」というような悩みをお持ちでしたら、マイクやマイクプリなどを真空管式のモデルに替えるだけで、問題が解決することもあります。
こう書いていると、真空管のいいところばかりが目立ちますが、「暖まるのに時間がかかる」、「衝撃に弱い」、「消耗品なので、時期を見て交換しなければならない」といった弱点もあります。しかし、プラグインやモデリング系のハードウェアでは決して再現できない質感は、本物の真空管でないと出せません。
最近では手頃な価格帯ながらも高級感のある、ふくよかな音で録れる製品も発売されています。ファットでディープな真空管サウンドの世界に、ぜひ触れてみてください。
文:樫村治延
代表的な真空管
ギターアンプのプリアンプ部に使われている12AX7。左よりムラードECC83、RCA 12AX7、タングスラムEVV82。ムラードは太くて前に出る強い音が特徴で、イギリス製のアンプで多く使用されていた。RCAの12AX7は、フェンダーアンプなどで定番のプリ管だ
左よりエレクトロ・ハーモニックスEL34、RCA 6CA7。どちらもEL34という、アンプのパワーアンプ部に使われているもので、マーシャルやVOXなどのイギリス系のアンプに採用されている
真空管を内蔵している主なモデル
①はフェンダーのBlues Juniorというコンボアンプのリアで、②はヒュース&ケトナーのTRIAMP MKⅡというアンプヘッドのフロント面。ちなみに、フェンダーのアンプは真空管をヘッド内の上面にある基盤に挿してセットするのが特徴だ。
③は世界中のスタジオでボーカル録音用マイクとして使われているノイマンU47 TUBE。ノイマンのチューブマイクでは、U67なども有名だ。
④はビートルズなどで知られるコンプレッサー/リミッターの名器、フェアチャイルドModel 670にも真空管が内蔵されている。
⑤はハイファイで暖かみのある自然なサウンドが得られるスタジオ定番コンプ、チューブテックCL 1Bも代表的な真空管内蔵モデルだ。
【石原愼一郎の試奏環境】
ギターは、石原氏自身のシグネイチャーモデル、フジゲンSHARA MODELを使用し、GDVケーブルで試奏機に接続。各モデルのアウトプットからスタインバーグUR22mkⅡ(オーディオインターフェイス)のギターインにつないでアビッドPro Toolsにレコーディングをし、ヤマハHS5(モニタースピーカー)で再生音ををモニタリングして音質を試聴した。
ちなみに、Pro Toolsのセッションファイルは、下山武徳(vo/サーベルタイガー)と石原氏のプロジェクト「HELL VOICE HELL GUITAR」の音源を使用。自宅で自ら制作したバックトラックに合わせて、サウンドメイキングをしてもらった。
【プロフィール】
石原愼一郎(イシハラ シンイチロウ) ロックバンド、アースシェイカーのギタリスト/ソングライター。1983年にアルバム『EARTHSHAKER』でメジャーデビュー。そのメロディアスな楽曲で日本のヘヴィメタル・シーンを代表するバンドとして大いに人気を博す。また、mintmintsというバンドやソロでも活動を展開している。
【飛澤正人の試奏環境】
今回はDAWソフトにアビッドPro Tools、オーディオインターフェイスにデジグリッドのIOSとIOXを使ってチェックを行なった。マイクの試奏では、クセの少ないアバロン・デザインAD2022(マイクプリ)を通してPro Toolsに録音。コンプの試奏ではPro Toolsのセッションファイルを開き、すでに録音済みのドラムやベースなどのソースにかけて試聴を行なった。DIは、パッシブのシングルPUとハムバッキングPUのエレキギター、パッシブタイプのエレキベースを接続して音質を確認している。ちなみに、モニタースピーカーはB&Wの805シリーズで、ヘッドホンはシュ アSRH1540を使用した。
【プロフィール】
飛澤正人(トビサワ マサヒト) Dragon Ashなどの作品を手掛けている敏腕エンジニア。空間表現や奥行きの作り方に定評があり、時間軸に音を刻み込むようなミックスはアーティストから厚い信頼を得ている。近年は作・編曲家としても活動を展開し、藤本 健氏とのコラボ企画『DTMステーションEngineering』もスタートしている。
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