エンジニア小岩孝志氏がサウンドチェック!

【マイク/コンプ/ミキサー】真空管機材徹底レビュー

【マイク/コンプ/ミキサー】真空管機材徹底レビュー

2019/05/15


今、注目の真空管レコーディング機材9台を、SIGN SOUNDのエンジニアである小岩孝志氏にチェックしてもらいました。プレイヤーとして協力してくれたSHINGOMAN氏と、試奏を手伝ってくれた同社エンジニアの増田康臣氏にも同席してもらい、お三方に感想を聞きました。

取材:平沢栄司 写真:生井秀樹 協力:SIGN SOUND LLC(http://signsound.net/)

小岩孝志 (コイワ タカシ)

小岩孝志 (コイワ タカシ) 
クリエイター集団SIGN SOUND所属のエンジニア。これまでに水樹奈々やAimer、ClariS 、梶浦由記、沢田研二、ゲーム「スーパーマリオオデッセイ」や「Splatoon」、劇場アニメ「Fate/stay night」など、アーティストものから映画やT V劇伴、サウンドラックなど、幅広い作品を手掛けている。

SHINGOMAN (シンゴマン)

SHINGOMAN (シンゴマン) 
ロックバンドAgitatoのメンバーとして、西川貴教が立ち上げたレーベルDefrock Recordsよりデビュー。2013年にSIGN SOUNDとマネージメント契約を結び、サウンドプロデューサー・作詞・作編曲を中心に活動中。これまでにT.M.RevolutionやHey! Say!JUMP、FLOW、小倉唯、BULL ZEICHEN 88などなど、ジャンルにとらわれず幅広く手掛けている。

 

試奏製品一覧

今回の試奏環境

まず、真空管マイクはグレース・デザインのmodel 201(マイクプリ)を通しました。model 201は内部に真空管を使っていないので、マイク側の真空管の特徴が確認しやすいと思ったからです。 試奏では、SHINGOMANくんが作ったオケを使って、彼のボーカルとアコギをアビッドPro Toolsで録りながらチェックしています。

真空管コンプを試奏する際は、オケの2ミックスと、録音した歌やアコギにかけてみました。真空管ミキサーも同様に、ライン入力へ入れたものにチューブを通して聴いています。

Lauten Audio LA-320(¥50,000)

スタジオとボーカル収録に適した、プロ品質で多様性に富んだラージダイアフラムの真空管コンデンサーマイク。定番のドイツ製マイクと同じ、1インチの圧力勾配仕様のトゥルーコンデンサーカプセルと、双三極仕様の真空管を使用している。

心地良いザラツキと暖かな歪み感が魅力

小岩:これはコンパクトで軽量ですね。普通のマイクスタンドでもお辞儀しないから、宅録で使いやすいと思います。

SHINGOMAN:黒くてスタイリッシュな見た目がカッコいいですね。

小岩:音質はちょっとザラツキがあるかな。イヤな感じではなく、元の声にあるシャリッとした部分が前に出る感じです。

SHINGOMAN:真空管的なザラツキというか、その質感が好きな人にはいいと思います。

小岩:声を張った時に歪み感があるんですけど、耳に刺さらない暖かい感じの歪みです。上のザラツキを残しつつ下が膨らむ印象というか、イヤな歪みじゃないところが真空管らしいですね。

SHINGOMAN:そのちょっと歪んでいるところが力強さになるんですよ。パワフルな歌い方や楽曲に合うかなと。あと、アコギに使っても良かったですね。

小岩:声だとレンジが狭く感じる場面もありましたけど、アコギとのマッチングが良くて、前に出る感じに聴こえます。

SHINGOMAN:価格がとても安いですし、真空管マイクの最初の1本にいいと思いました。

Lewitt LCT 940(¥162,037)

ラージダイアフラム FETコンデンサーマイクと、真空管のキャラクターが1本のマイクに共存した製品。真空管とFETのそれぞれが独立したシグナルパスで動作し、キャラクターを真空管とFETで自由に切り替えたりブレンドすることができる。

潰れずに粒が揃って聴きやすいサウンド

SHINGOMAN:本体の中で真空管が光っているのが丸見えなんですよ。

小岩:真空管マイクを使っている感がありますね。音の印象は柔らかくて重心が下がる感じです。ボーカルだと中域がメインになるような印象ですね。

SHINGOMAN:アコギをレコーディングした時は、弾いていて気持ちいいなって思いましたね。

小岩:チューブの質感のせいかサウンドが潰れることがなくて、粒が揃ってとても聴きやすいですね。

増田:アタックがちょっと遅いみたいですけど、アコギだとかえって粒が揃って聴きやすくなるんです。

SHINGOMAN:チューブとFETを切り替えてみると、その差がハッキリとわかります。チューブは暖かみがあって、FETはいかにもコンデンサーマイクらしい音で、マイクが2本あるんじゃないかというくらい、サウンドが変わって面白いなって思いました。

Manley Laboratories Reference Silver Mic(オープンプライス/¥450,000前後)

伝説のマイク、ソニーC-37Aにインスピレーションを受けたリファレンスマイク。単一指向から無指向まで指向性調整が行なえる。5670真空管の陰極下にあるFETと、手巻きのマンレイIRONトランスにより、強い電圧で信号を増幅する。

manley Reference Silver Mic

問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213

マイルドでキメ細かい、歪み感のない録り音

小岩:Referenceシリーズのゴールドとブラックに続いたシルバーの筐体ですね。ボーカルもギターも、上から下までバランスが良かったですね。まさに真空管マイクの真打登場という感じです。

SHINGOMAN:歌っていても、声が伸びていく感じが気持ち良かったです。それでいて、真空管マイクらしい中低域のモッチリ感もあります。ソフトに歌った時の柔らかさはR&Bとかに向くんじゃないでしょうか。アコギでも同じ印象で、上は気持ちいいし下もしっかりあるしで、本当に音が良かったですね。

増田:上もかなり伸びているけどマイルドというか、キメ細かい感じなんですよ。

小岩:歪み感がなくて、純粋に真空管の暖かみが付加されます。入力信号を余裕をもって出力している感じの上品な音なんです。万能だと思いました。ただ、ショックマウントの首がまったく動かないので、マイキングはマイクスタンドの方で工夫するといいと思います。

peluso 22 47(¥228,000)

ノイマンの伝説的なマイク「U47」のスタイルに影響を受けて設計されたマイク。70年代のドイツの放送局でU47の改良用に使われていた、ガラス三極管タイプの真空管を採用することにより、高いゲインと低いノイズフロアを実現した。

オケに馴染ませやすい柔らかくふくよかな音

peluso 22 47

問:㈱エレクトリ
TEL:03-3530-6181

小岩:見た目はまんまU47です。艶のある表面の加工がキレイで、高級感がありますね。U47よりひと回りくらい細くて小さいかな。音質はかなり柔らかくて、歌だとEQで少し上をブーストしてアタック感を足したくなる感じでした。

増田:古いU47っぽい音というか、ハイが落ちている分、太く聴こえるんですよ。

SHINGOMAN:歌でもギターでもキャラクターは一緒で、真空管らしさを感じるミッドにフォーカスされた、柔らかくてふくよかなサウンドですね。

増田:ハイがキツめの歌声とか、ローがないシャリシャリしたアコギをうまくまとめてくれると思います。

小岩:オケに馴染ませるような場面で使うといいんじゃないかな。上が滑らかに減衰しているから、いい感じに余計なところが削られます。ちなみに、歌やギターを録る時は単一指向で使いますけど、周波数特性的には無指向にする方が絶対いいので、試してみる価値はありますよ。

sE Electronics GEMINI II(オープンプライス/¥130,000前後)

真空管が2本入っているコンデンサーマイク。入力段に12AX7、出力段にはトランスに換えて12AU7を採用。第2の真空管で出力インピーダンスの最適化を実現し、一般的にトランスで生じてしまいがちな高域のロールオフを回避している。

se GEMINI II

問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213

レンジが広くてパワー感もある

小岩:重さが1.2kgで直径8cm、高さ19cmという大きな筐体です(マイク部分)。しっかりしたマイクスタンドが必要ですね。でも、見た目から想像していた音とは違ってモッサリ感がないし、レンジが広くて、すごく好印象です。

SHINGOMAN:真空管らしく中域がしっかりしているし、パワー感もあってバランスがすごくいいと思いました。

増田:これは真空管が2本入っていて、出力がトランスじゃないんですよ。

小岩:そのへんも音色に影響しているのかな。いい意味でハイの伸びがあります。

増田:特に女性ボーカルとの相性が良さそうですよね。スピードが速くてアタック感がキレイだから、歌の表情がよくわかると思いました。

SHINGOMAN:歌っていて気持ち良かったです。ボーカルに向いていますよ。

小岩:アコギだとちょっと硬い印象がありましたけど、オケよりもちょっと前に出したい時にはいいんじゃないかな。

Golden Age Project COMP-2A(¥73,000)

真空管コンプの名機LA-2Aを再現した製品。ゲインリダクション回路の出力段では12AX7管が電圧増幅器として、6N6管がインピーダンス変換回路として動作する。また、サイドチェインセクションは12AX7管と6P1パワー管で構成されている。

golden age project COMP-2A

問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855

ローが豊かになり輪郭が見えるコンプ

小岩:小さくて自宅でも使いやすいサイズ感がいいですね。これを通すだけでも真空管のニュアンスが感じられます。

増田:特にローが豊かになりますね。絞まった感じで、しっかり出てきます。

小岩:ベースに使ってみると、モッサリすることなく下の輪郭が見えてきました。でも、ボーカルだと音色的に下の張り出しを抑えたくなるかな。普通にレベルを抑えてくれるというか、音が潰れないのもいいですね。

増田:そうですね、歪み感もない。ただ、5dBまでリダクションすると音が遠くなる傾向があるので、うっすらかけてレベルを馴染ませるような使い方がいいです。

小岩:音が遠くならない範囲でレベルを整えながら、中低音の輪郭が見えてくる感じを付加するのがいいと思います。リミッターにして使う場合は、細かな調整をせずに少しだけリダクションさせればギターの粒がピタッと揃ってくれます。歌よりも楽器との相性がいいですね。

Manley Laboratories Nu Mu(オープンプライス/¥298,000前後)

2対の6BA6真空管が各チャンネルにマッチングされている新世代のステレオリミッター/コンプレッサー。HIPコントロールにより、ラウドな部分は本来のダイナミクスのままで、ソフトな部分をしっかりと持ち上げることができる。

manley nu mu

問:㈱フックアップ
 TEL:03-6240-1213

ナチュラルにかかる色付けのないコンプ

小岩:マンレイらしい上品な見た目に惹かれますね。基本的にはバスや2ミックスで使うコンプですけど、ギターにインサートしてもいい感じでした。音が太くなるかと思ったけど、あまり色付けは感じなくて、本当にナチュラルで上品な音です。逆にチューブ感やコンプ感が欲しい人には物足りないかもしれません。

増田:ボーカルにも使ってみたんですけど、ハデにリダクションさせても全然潰れる感じがないし、奥に引っ込まない。

小岩:2ミックスにインサートしてリダクションさせると、器を大きくしてくれます。音がキレイに整って、「もっと入りますよ、レベル上げちゃっていいですよ」って。音数の多い曲でも音を潰さずに、自然にレベルが稼げると思います。

増田:あまりコンプがかかっていないように聴こえるんですよ。でも、楽器同士をうまくつなげてくれました。

小岩:そのへんの自然なところが真空管らしさかなと思います。スネアとかも、中高域のアタック感をうまく残しつつレベルはちゃんと抑えてくれました。

Wes Audio Timbre(¥235,000)

ビンテージコンプのゲイツSTA-Levelをリファインしたアップグレード・バージョン。6386真空管を使用したオールチューブ回路で、シンプルな操作性と素晴らしい質感を持ち、滑らかなコンプレッションを現代のレコーディング環境で実現する。

wes audio Timbre

問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855

ヘンな潰れ方をせずに深くかけられるコンプ

小岩:これはボーカルにガッツリかけてもヘンな潰れ方をしませんね。本当にレベルをうまく整えてくれる感じで。

増田:ビックリするくらいナチュラルですね。リダクションメーターの表示が40dBくらいまであるので試しに振らせてみたんですが、それでも自然なんです。

小岩:ガッツリかけた時は、ちょっとだけハイが上がるというか、歪み感というか、真空管の質感が出てきます。それが、深くかけても音が遠くならないところに通じるんだと思いますね。

増田:真空管らしい中低域の押しや、音の元気さも感じますね。あと、「シングル/ダブル/トリプル」というモードが選べて、音色が変わるんですよ。トリプルの方がアタックが早くてガッツリかかります。それで、ちょっとハイも落ちて聴こえる気がします。シングルの方はナチュラルで使いやすいですね。

小岩:バスや2ミックスよりも、パート単位で使うといいと思います。特にボーカルとのマッチングがいいですね。楽器だったらベースとか。あとはサックスとか、中域が張り出すようなパートでも試してみたいですね。

ART Tube Mix(¥39,800)

12AX7真空管を通った暖かみのあるサウンドでボーカルや楽器を録音できる5chミキサー。CH1/2はマイク、CH3/4はライン信号、CH5はギター/ベースなどの楽器を入力可能。CH1/2/5は、真空管を割り当てることで、サウンドを温もりのあるトーンにできる。

“いかにも真空管”という感じのふくよかなサウンド

小岩:「TUBE ASSIGN」ボタンを押して真空管を通すと明らかに音が変わりますね。誇張されているわけではなく、ナチュラルなチューブ感です。音の輪郭が「クッ」となって、低域が膨らむ感じです。

SHINGOMAN:いかにも真空管という感じのふくよかな音に変わりますよね。

小岩:チューブの効果がわかりやすいと思います。ボタンひとつで切り替えられますから、聴き比べれば誰でも明らかに違いがわかると思います。

SHINGOMAN:これは普通にミキサーでありながら、オーディオインターフェイスにもなる。本当に多機能ですね。

小岩:使いどころとしては、「EQは使いたくないけど、ちょっと前に出したい」という時とか、味付けをしたい場面で、真空管を通して少し歪ませると良さそうです。CH1/2はステレオで使えるので、仕上げた2ミックスの質感をちょっと変えたい時に通してみても面白いんじゃないでしょうか。あと、CH5は内蔵のアンプシミュレーターが使えて、さらに真空管を割り当てることもできますから、ギターとかベースをつないで宅録をする人は重宝すると思いますね。

SHINGOMAN:安価なのも魅力的ですよね。ミキサーが欲しくてチューブにも興味があるという人にいいと思いますよ。

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